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平成23年度入学式告辞(平成23年4月7日)

 

 清明して桜舞う今日、雄大な桜島を背景に、平成23年度の入学式を挙行し、若き熱情と希望に満ち溢れる皆さんを鹿児島大学にお迎えできますことは本学にとりまして大きな喜びであります。

 今年は、法文学部、教育学部、理学部、医学部、歯学部、工学部、農学部、水産学部の8学部に、2030名の学部学生、人文社会科学研究科、教育学研究科、保健学研究科、理工学研究科、農学研究科、水産学研究科、医歯学総合研究科、司法政策研究科、臨床心理学研究科の9研究科に581名、計2611名および連合農学研究科の32名の大学院生を加え、73名の外国人留学生を含め、総勢2643名の新入生を迎えました。
ここに、教職員2400名と在学生1万名とともに、皆さんの一人ひとりを心から歓迎いたします。また、見事入学を果たされた皆さんのこれまでの日頃の研鑽と努力に敬意を表し、その志を支えられたご家族の皆さまに心よりお慶び申しあげます。

 さて、去る3月11日に発生した東北地方太平洋沖の巨大な地震と津波は、これまでに例をみない規模の災害を引き起こしました。被災地の悲惨な状況に全ての国民は深く心を痛め、鹿児島大学も大きな悲しみに包まれています。被災された方々に対し、心からお見舞いを申し上げますとともに、お亡くなりになられた方々へ、衷心より哀悼の意を表します。鹿児島大学では3月14日より、義援金の募金、医療支援チームの派遣や本学および九州地区国立大学の学生および教職員の心のこもった救援物資の鹿児島大学水産学部練習船かごしま丸による新潟港への輸送などをはじめ、様々な取り組みを行ってまいりました。今後も、考えられる、あらゆる支援活動を検討し、準備を進めているところであります。鹿児島大学としては、これらの作業を一刻の遅滞もなく進めるとともに、大学の総力をあげて支援に当たらせていただく決意であります。
 この震災による死亡と不明者の数は27000人を越え、皆さんと同世代の多数の若者の命も奪われました。今のこの瞬間も、被災地では、皆さんと同世代の若者が、家族を失い、家が失われるなどの厳しい生活の中で、自ら復興活動を開始しています。彼らが今、抱える悲しみと苦しみは、察するに余りあるものがあります。
 この日本の事態は、全国民の一人一人へ、人間の生と死、個人と社会、人にとっての豊かさや幸せ、あるべき社会、生き方を自問せよと鋭くせまっています。いま日本が直面している未曾有の困難にあたって、皆さんも、この困難を直視し、今できることは何かを考え、実践しなければなりません。日本がこの厳しい試練を乗り越え、心豊かに安心して生活できる、持続発展可能な「希望ある成熟社会」を構築するために、次世代を担おうとする皆さんは、大変大きな期待と責任が課せられていることを自覚し、自己を真剣に見つめ、何のために大学に入学したのか、どのような人間になるべきか、そのために大学では何を修得するか、様々に自らに問いかけ、目標を定め、その実現のために力強い第一歩を踏み出すことが皆さんに課せられている責務ではないでしょうか?

 皆さんが自ら目標をさだめ、実現する上でも、鹿児島大学の学生として、認識しておくべきことをいくつか述べます。
 第一は、本学の使命と教育理念と鹿児島大学学生の愛唱歌「北辰斜めに」についてであります。
 本学が所在する鹿児島は、日本列島の南に位置し、活火山の桜島や霧島、世界自然遺産の屋久島および生物多様性に富む奄美群島など、後世に遺すべきすばらしい自然環境にめぐまれ、また、古今、アジアと世界の諸地域に開かれた南の門戸として、海外との交流を通じ異文化の導入を率先して行い、豊饒の文化を育んだ地であります。このような風土の中、鹿児島は、鎖国の中、高い志をもって、英国へ留学した鹿児島中央駅前広場に建立されている「若き薩摩の群像」の若者のように、幾多の困難に果敢に挑戦し、わが国の変革と近代化を推進した数多くの英才を輩出してきました。 
 鹿児島大学の起源はこの「進取の気性」に富む若者を育てた藩学造士館であります。明治以降も、藩学造士館の名跡を受け継いだ第七高等学校造士館、ウイリアム ウイリスを校長とする西洋医学校、鹿児島師範学校、鹿児島高等農林学校、鹿児島県立商船学校、鹿児島県立工業専門学校などが創立されました。これらの高等教育機関はそれぞれ長い歴史を刻んだ後、1949年(昭和24年)に統合し、新制鹿児島大学としてスタートいたしました。その後、1977年(昭和52年)に歯学部が新たに設置され、現在、8学部と10大学院からなり、約12000名の学部学生と大学院生が在籍する総合大学であります。
 本学の使命は人類社会の発展の基礎となる「真理の探究と人格の陶冶、すなわち知の創生とその継承」であり、教育理念は鹿児島の教育的伝統を継承し、「真理を愛し、高い倫理性と社会性を備え、向上心を持って自ら困難に果敢に挑戦する、国際社会と地域社会で活躍しうる人材を育成する」ことであります。
 本日の入学式において、皆さんが本学の一員になったことを祝し、在学生とOBにより第七高等学校第十四回記念祭歌「北辰斜めに」が贈られます。「北辰斜めに」は1915年(大正4年)に第七高等学校造士館の学生で当時21歳であった簗田勝三郎(やなだ かつさぶろう)が作詞したものであります。「北辰ななめにさすところ」はわが学舎(まなびや)のある鹿児島は北極星が頭上高く仰ぐ地ではなく、低く斜めに見る南の地であることを表現したものであります。1番と2番の歌詞は鹿児島の風土と静の薩摩潟と動の桜島を讃え、3番と4番では、自己研鑽と理想への勇躍を歌い上げています。作詞したときにはすでに病を患っていた簗田勝三郎(やなだ かつさぶろう)は病が重くなったため、翌年退学しますが、24歳の若さで亡くなります。その後、この「北辰斜めに」は現在まで、96年間、七高生と鹿大生に歌い継がれてまいりました。皆さんには、七高生および鹿大生の魂のふるさとともいうべき不朽の名歌である「北辰斜めに」を、愛唱し、青春を謳歌するとともに、仲間と切磋琢磨し、自己実現を目指し、本学のアイデンティティーを共有していただきたい。

 第二は、昨年の11月15日、第61回開学記念日に本学の学生としての行動の指針や規範として制定した「鹿児島大学」学生憲章についてであります。学生憲章を制定している大学は、少なく、学生が主体となって学生憲章を制定した国立大学は本学が全国で唯一であります。すなわち、本学は皆さんの主体性を育成し、尊重する大学であります。本学は主体的人間力育成をめざしています。学生憲章は本学の教育理念をしっかり受け止め、憲章の前文には、本学の学生であることを誇りとし、学ぶことのできる環境に感謝し、桜島のように気高く、時には、激しさをもち、自らを磨き、未来を拓いていきますと謳い、勉学に真摯に取り組むとともに、課外活動やボランティア活動などを通して、人間力と進取の精神を涵養し、高い志をもって自己実現を目指すことを高らかに宣言しています。学生諸君への国民の期待に応えうる素晴らしい内容であり、今後学生により、永く継承されるべきものであります。入学された皆さんもこの学生憲章を力強く実践し、人格の陶冶、人間力の向上に努められることを心から期待します。

 皆さんは、自己を真剣に見つめ、何のために大学に入学したのか、どのような人間になるべきか、様々な真摯な自問自答のなかで、賢明な皆さんは社会発展の責任ある参画者へと成長するためには、学士課程において、専攻する特定の学問分野における基本的な知識、技能と態度のみならず、どの分野に進もうとも共通して必要であるコミュニケーションスキル、論理的思考力、問題解決力、自己管理力、チームワーク、リーダーシップ、倫理観、生涯学習力などの学士力の修得、また修士課程および博士課程において、真理すなわち物事の本質を貫いている法則を探究するための創造的思考力の修得が不可欠であることを気づくであろうと思います。被災地の人々の苦しみのなかの清逸な強さから人間としての尊厳と生き方を自らのこととして、心に深く記銘し、人類の未来を切り開く気概を持つとともに、学生憲章の基本理念に基づき、主体的積極的に自己研鑽に努めて頂きたい。そして、一人ひとりが持続発展可能な『希望ある成熟社会』の力強い担い手に成長されることを心より祈念して告辞といたします。

 

 

    平成23年4月7日  
             鹿児島大学長 
                吉 田 浩 己